「とうとうきたか」と思わずにいられませんでした。
電通、赤字転落へ
2009年5月11日、大手広告代理店の電通が創業期以来の赤字決算を発表しました。
あの「電通」が赤字転落?
まさか、と思った人も多かったのではないでしょうか。
電通の発表によれば、広告費の落ちこみなどを受け、2009年3月期連結決算は、204億円の赤字になったということです。前期は362億円の黒字を記録していることを考えると、その落差は約500億円です。天文学的な数字にさえ思えます。
そうした業績悪化を受け、6月の役員賞与を支給しないことを電通は同時に発表しました。電通の危機感が見てとれます。
このニュースを耳にして、広告華やかなりし時代の曲がり角が「とうとうきたか」と私は思ったわけです。
実際、広告の世界は現在、大きな壁にぶつかっています。市場が成熟し、モノやサービスだけでなくそれに関する情報があふれる中で、広告はその存在感や影響力を弱めつつあるからです。
あの「電通」でさえも例外ではなかったわけです。
「疑い深く賢い消費者」の誕生
好むと好まざるにかかわらず、日々たくさんの広告にあなたも触れています。アメリカでは、普通の市民が一日で1万5000回も広告に接しているという調査報告があるそうです。日本に住むあなたの状況も大差はないはずです。テレビCM、電車内の中吊り広告、ウェブサイトに埋めこまれた広告バナーなど、枚挙に暇がありません。
しかし、そうした広告の言うことを額面通りあなたは信じるでしょうか。無批判に従うでしょうか。そうではありませんよね。
なぜなら他の消費者と同様、あなたはご存じだからです。広告が企業の都合で作られているものだということを。
それゆえ都合のいい企業側の言い分ばかり並べ立てる広告に騙されてなるものか、と身構える姿勢が多くの人々に共有されています。あなたもそんな一人のはずです。
このような状況を『明日の広告』の著者である佐藤尚之氏は次のように表現しています。
ネットの出現以前からその前兆はあったのだが、ネットの出現でいよいよ広告は疑われるようになった。ネットで消費者同士が情報交換するようになり、「この商品はいい商品ですよ」と広告で訴えても「ホントかよ~」と広告を疑うようになったのだ。おまけに情報洪水で消費者はメーカー側の論理も商品の裏側も知るようになり、市場の成熟によって「どの商品もそんなに違わないだろう」と高を括るようになった。実に手強い「疑い深い消費者」の出現である。(p29-30)
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「広告は消費者へのラブレター」だという風にしばしばたとえられます。しかしながら佐藤尚之氏が述べていることからわかるように、今やラブレターをわたす相手のほとんどが(そして、あなたも)口説かれまいと身構えている状況なのです。
したがって、広告というラブレターが効果を発揮しにくい時代になっているのは明らかなのです。
冒頭で言及した電通の赤字転落のニュースは、それを象徴する出来事に思えてなりません。
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