ケチャップ

2001年の夏、スイス人の友人の結婚パーティーに出席した翌日のことだ。宿泊したホテルはドイツとスイスの国境にあるボーデン湖の湖畔であった。湖沿いに行くとドイツに行けると言うことなので、自転車をレンタルしてパートナーと一緒にドイツを目指してペダルを踏んだ。気持ちのいい、晴れた日で、サイクリング・コースもよく整えられていて快適だった。一時間くらいかけると国境を越えてドイツに入ることができた。

そこからもうしばらく行って、少し大きな町にたどり着いたので簡単に食べてから戻ろうということにしてマクドナルドに入った。別にマクドナルドに行きたいわけではなかったけれど、慣れない通貨だったのでチップ計算が面倒だったからだと思う。注文したときはマネージャークラスの中年のおじさんが対応してくれて英語で対応してくれた。何の問題もなかった。

食べ始めてからケチャップがほしいな、ということになった。「ケチャップいただけますか」と英語でいうと、その時カウンターにいた高校生くらいの女の子はドイツ語で答えた。僕のドイツ語はかなり怪しいが、ケチャップ代を払えということらしい。ファースト・フード店でケチャップ代を払ったことなど一度もないので、「本当に払わなければならないのか」と英語で確認すると、またドイツ語で返してくる。今度は何を言っているか、全然わからなかった。彼女は英語で話しかけられるのがひどく嫌みたいである。でも、僕としてもドイツ語で表現できる内容というのは「ありがとう」「さようなら」「私はドイツ語を勉強しています」とかそのくらいのものなので、それ以上になると英語で意志疎通をはかるしかない。

「払わなきゃならないのなら払うけれど、何マルク?」というと、彼女はカウンターの奥から鷲掴みにした2・3のケチャップ袋を出して僕に渡した。そしてウインクした。お金はいいから持っていきなさい、ということらしかった。
とりあえず礼を言ってその場を去ったが、未だにケチャップを見るとあの時のことが突然記憶に甦ってくることがある。

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