「生活世界」「システム」そしてブログ

吉田 純(『インターネット空間の社会学』を読んでいると以下のような件(くだり)があった。 

 


インターネット空間の社会学―情報ネットワーク社会と公共圏
表現の自由とネットワーク管理の矛盾という問題も、やはりミクロからマクロへと電子民主主義が実践される空間が拡大することによって顕在化したと考えられる。ミクロな仮想空間では比較的成員が限定され、また自律的な規範形成がおこなわれやすいため、ネットワークの乱用という問題は生じにくかった。しかし空間の規模が拡大すれば匿名的参加者とともに逸脱行動が増加し、自律的規範形成は行われにくくなり……pp137-138

このような現象的な流れは、僕の場合、ブログを通して経験的に理解していると言っていい。

僕が有料のレンタル・サーバーのスペース上にmovable type(以下MTと略す)をインストールしたのは、2002年のことだった。ゆえに日本ではかなり初期からのブログ・ユーザーということになる。

その当時、日本語のブログ・サイトといえば、基本的にMTを自力でインストールすることに成功したユーザーたちであった。当時、プログラム型のcgiであるMTをインストールして、快適に使えるようなレンタル・サーバー環境自体あまり一般的ではなかった。

インストールした後は、blog rollingのようなリンク・サービス経由で少しずつ国内外のブログ・サイトを知るようになった。日本のブログ・コミュニティーは非常に小さく、当時は数十のサイトがリンクしあって繋がっているような状態だった。

小さなコミュニティーだったが、親密な雰囲気がそこにはあった。MT関係の情報の交換だけでなく、それなりに礼儀正しく隣近所同士のように意見交換が行われていた。僕自身もコメントだけでなく、トラックバックの仕組みは情報収集をしたり、議論の流れを追っていくのに画期的だと思った。eジャーナル(インターネット上に公開された論文)にハイパーリンクを貼るだけでなく、研究者や学術系のブログなどが増えてくれば、引用・参照させていただきましたよ、といったお礼や挨拶が簡単にできるようになる。

しかしながら、bloggerなどの簡単な登録さえ済ませれば使えるようになるブログ・サービスが公開され、特にアメリカを中心に爆発的な人気を博すようになった頃から、いわゆるコメント・スパムや迷惑トラックバックといったものが海外から日本のブログにも送りつけられてくるようになった。多くは、アダルトサイトやギャンブル・サイトへの誘導や被リンク数により検索エンジンでの上位表示を狙ったものだった。

ブログ圏ともいうべき「空間の規模」が拡大することによって「匿名的参加者の増大」とともに「逸脱行動が増加」するという流れがブログの世界でも起こったわけだ。2004年くらいから日本でもユーザーが爆発的に増えると、今度は日本語のコメント・スパムや迷惑トラックバックも増えてくる。

このことをハーバーマスの公共圏論に準(なぞら)えて考えてみよう。

初期の日本の(ブログユーザーと言うより)MTユーザーのミクロなコミュニティーはハーバーマスのいう「生活世界」の段階で、自律的な規範形成が行われる傾向が強かった。

しかし、その規模が拡大し、マクロになり(ハーバーマスいうところの)「システム」化してくるとそういった規範形成が行われる傾向は弱くなってくる。むしろ匿名性が強くなることで、逸脱行動が増加し、ある意味ではポストモダン的何でもありの状況になりうる。

このようなシステム的状況の大きな流れは、生活世界に強い影響を与えることになりがちである。そして、かつての小さなコミュニティーにあった親密な雰囲気を形成することは以前より難しくなり、建設的な話し合いや意見交換をしようという雰囲気も以前より形成されにくくなる。個々のブログの中には、なんとなく巨大掲示板2ちゃんねるのような殺伐とした雰囲気になっているようなものも時に見かける。

ハーバーマスはこういった状況を「システムによる生活世界の植民地化」という風に表現している。

 現在、僕自身はインターネットというメディアを通じた公共圏の再構築というテーマに強い関心を持っている。上記のヴィジョンだけだともう救いようがないが、生活世界における公共圏がシステムに対して強く影響を与えうる具体的なケースもさまざまなソースからこのところ知るようになっている。
 世の中、プラスとマイナス、裏と表、常に二律背反的に存在し合ったかと思えば、相互補完的であったり混ざり合ったりしていることが多い。黒と白の間を行ったり来たりしつつも、常にグレーゾーンの存在を意識しながら思考していくことが大切なのだろうな、と思う。

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