7月2日付けの朝日新聞の朝刊の第三社会面にひっそりと記事が載っていた。記事が見出しで伝えるように「元建築士の嘘がすべて」というものだった。つまり、蓋を開けてみれば、この事件の全体は姉歯元建築士個人の単独犯ということになる。
国土交通省の聴聞会のさい、姉歯元建築士が偽装の動機を「木村建設による圧力によるもの」と言及していたが、実際は木村建設の案件以前にもいわば自主的に偽装を行っていたことが判明し、姉歯元建築士は偽証罪に問われ再逮捕された。このことは、NHKなどが実に地味に伝えただけだった。
あれほど騒ぎ立て、関係者を次々と魔女狩りのように追い立てていった民放各社はこの件をほとんどとりあげなかった。
もちろん構造チェックを骨抜きにした検査機関や偽装発覚後に大量の耐震偽装物件を消費者に売りつけた不誠実な不動産会社の対応などは責められるべきだ。しかしながら、よく下調べもせず、姉歯元建築士にいわば騙されてしまった被害者である取引先も一緒になって悪役としてマスコミ各社が叩き、そこから実際に自殺者(世田谷区の設計事務所代表)まで出してしまったことは忘れるべきではない。これは明らかに報道被害である。松本サリン事件の反省をマスコミは生かしているという風には考えられない。
マスコミに良心があれば、この一連の耐震偽装問題を事件の全体像と報道姿勢の両面から総括し、反省するのに今は絶好のタイミングであるはずだ。マスコミは一つの社会的・文化的・政治的な権力組織であることは間違いない。その力の使い方を間違えれば取り返しのない被害が出る場合も少なくないことにそろそろ目覚めてもいいのではないか。
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