読書と出版

ネットの「こちら側」と「あちら側」-『ウェブ進化論』を読んで-

梅田 望夫『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』ちくま新書、2006年)を読んだ。 インターネット周辺の文化やビジネスに関して実に啓蒙的な内容である。知の世界を再編しようというグーグルの野望、ロングテールとWEB2.0、オープンソースの可能性と課題などが実例を交えてわかりやすく語られている。ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる    ちくま新書
もっとも僕が興味深く読んだのは、ネットの「こちら側」と「あちら側」に関する議論だ。ネットの「こちら側」とはそれぞれのPCやハードディスクに依存する固有のスペースで、「あちら側」とはインターネット上のサーバー内にあるスペースのことを指している。
 メールの管理の仕方が現時点では一番わかりやすい例だろう。あなたがOUTLOOKなどのメールソフトを使用して自宅PCや職場でのPCでメールを送受信しているのなら、それはメールをネットの「こちら側」で管理していることになる。その一方で、yahooやgmailなどの各種ポータルサイトなどが提供するWEBメールを使用している、つまりブラウザ上でメールを送受信しているのならネットの「あちら側」でメールを管理していることになる。


 僕自身はかつてはOUTLOOKなどのメールソフトで自分のメールを管理していたが、プロバイダーを変える度に設定を変更したり、過去のメール・データが新しい環境に移行できなかったり、PCのハード・ディスク故障によりメールを喪失したりという「こちら側」での不便や失敗を繰り返すうちにYahooやGmailなどのWEBメールに完全に移行した。
 
 メールだけでなく、ネットの「あちら側」に可能な限り自分の知的財産を置くという方向に僕は動いてきている。それはに二つの理由がある。PC上に自分にとって大切なデータを置いておくのは紛失や喪失の可能性が常にあり危険だという結論に達したことが一つ。もう一つは「あちら側」にデータを保存しておけば、インターネットのある環境からならいつどこからでもアクセスが可能だからだ。
 このように、ブログにエントリーを書き込むのも思いついたこと、必要だと思った情報、思考の流れなどを「あちら側」に保存し、アクセス可能にしておく手段の一つだ。
「あちら側」ですべてをやって「こちら側」を軽くするという考え方(p58)は1995年くらいからあったようだが、ネットワークの高速化やサーバー・スペースの増強などによって、ここ数年急速に現実化してきている。次世代インターネットIPv6の時代にはインターネットのスペース上に個人が膨大で多様なアーカイブを十人十色の形で抱えるようになるはずだ。ブログの急速な増加と多様化はその一端を僕たちの目の前に可視化させている現象だと僕は今現在考えている。

関連リンク
My Life Between Silicon Valley and Japan
CNET Japan Blog – 梅田望夫・英語で読むITトレンド

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コメント

  1. 久しぶりです!
    バーミンガムのとき御世話になったダイサクです。
    覚えてますか?
    ボクは、まだ、ACSでPhDやりつつ日本にいま~す。
    とりあえずボクもblogはじめました。ヨロシクおねがいしまーす☆

  2. ダイサク君、こんにちは。
    ブログ早速拝見しました。
    元気そうで何よりです。
    機会を見て遊びましょう。

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