第17回 日本大学芸術研究会では映画評論家の波多野哲朗先生に講演をお願いした。波多野先生は1936年3月15日生まれで、本日70歳の誕生日にあたり、芸術学部の映画学科の専任教員としては定年を迎えられた。
講義内容は文化に興味がある僕のような者にも非常に興味深い内容だった。前半はアイデンティティの不統一性や不連続性の問題を先生の生い立ちにからめて説明が為された。福井地震や敗戦を経験。原風景としての焼け野原。ファシズムから民主主義への端境期を生きることで、アイデンティティや自己意識内にある亀裂や不連続性、矛盾を正面からとらえるようになった経緯はある種の必然性を感じずにはいられない内容だった。
異文化が邂逅し、混じり合う場所としての境界という問題を考えるにあたって、ユーラシア大陸をバイク横断し、実際に行動しながら、境界の連続性といったものを体感しながら思索するという手法は大胆だが、映像を見ると、なんだか楽しそうに見えた。
観念の支配から逃れたものがノイズという考え方も非常に面白かった。映画は観念だけでは制作できず、他者や外部の予定外のノイズ的な要素をカット・アンド・ミックスして作る芸術だというのは確かにうなずける。もう一歩進めて、自閉した社会を打ち破る力としての映画という捉え方も僕にとっては新鮮だった。つまり、映画はコントロールできない他者やノイズを常に取り込んでいく必要があり、それゆえ「世界」をして自らを語る、語らざるを得ないからだ。
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