この本、 『失敗学のすすめ』(畑村 洋太郎著、講談社、2000年)の存在を知っている人は多いはずだ。雑誌やテレビなどに何度も紹介されたし、日本テレビの「世界で一番受けたい授業」に著者本人も登場していた。
失敗から学ぶことの重要性はいろんなところで強調されている。失敗を教訓として次に生かしなさい、くらいのことならばわざわざ本を読まなくともわかっていると人は思うだろう。しかし、畑村氏は失敗を正面から受け止め、そこから学んだことを共有するだけでなく知識化する重要性を説く。それは、本のタイトルにもなっている「失敗学」にふさわしい内容になっている。
教育場面においても、失敗学の考え方は非常に有効だ。あなたが学生だとしよう。
教師の自慢話や成功談は時に面白いものもあるが、退屈なものが圧倒的に多いし、共感できるものやそこから学べるものもさほど多くないのではないか。
逆に、失敗談や反省談を中心に授業や講義が展開したらどうだろうか。当時の自分の心の動きを教師自らが描写しながら、それに対して深い洞察や分析を加え、そこから学んだことを吐露する。人の失敗談には不思議な魅力がある。共感しやすいし、記憶にも残りやすい。授業において、知識を伝達するだけでは、受け取る側の理解は表面的なものにとどまりがちだと考えられる。それを深化する上で、具体例や印象的なエピソードを組み込むことは普通に行われているが、意識的に失敗談や失敗例を吸収してほしい知識に絡めて提示することができれば、教育効果はぐっと高まる気がする。
失敗学の考え方を、教育現場で応用したほんの一例を考えてみたが、この本は失敗学の全貌を一冊で見せてくれる。既存のパースペクティブの転換に役立つだけでなく、実際のビジネスや生活場面でも応用できる考え方や具体的なアイデアがふんだんに盛り込まれている。よって、どんな人にもお薦めできる内容になっていると思う。
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