■ある「商品開発ストーリー」をめぐって
先日、とある企業の商品開発担当者にインタビューをさせてもらい「商品開発ストーリー」への落としこみを行いました。
その完成した「商品開発ストーリー」を企業の広報材料として、コーポレート・サイトやパンフレットなどに掲載して多くの人に読んでもらおう、というのが当初の企画意図でした。
しかし、完成したものを経営者に一読してもらうと、次のようなコメントが返ってきました。
■経営者のコメント
「阿久澤さん、これマズいな。わかりやすすぎる。これ読んで、ウチの商品をマネする会社が出てくる危険性を考えると表には出せないよ」
つまりダメ出しされたわけです。
photo credit: Markus Bollingmo via photo pin cc
他でやっていないコンセプトを実現するため、その商品開発には初期段階からかなりの苦労がありました。
しかしサービス化に成功し、さらに進化を重ねた結果、今や誰でも知っている大手企業に次々と採用されるようになっています。
苦労の連続が報われた結果のサクセスストーリーなので読み物としては面白いはず……私の中には強い確信がありました。
■「わかりやすさ」は諸刃の剣
しかし、開発アイデアから、その商品がどのような機能追加をすることで強くなり、進化してきたか、そういった発展過程がストーリーを一読するとわかる形になっていました。
広報材料としては、外部の人にわかりやすいことは強みです。
しかし、商品の中身があまり浮き彫りになるのは……特に、他にない独自商品やサービスを展開している企業にとっては企業秘密・ノウハウの流出、それにより競合にマネされる脅威につながります。
つまり、ストーリーの持つ「わかりやすさ」は諸刃の剣なんですね。
■公開できなくとも……
とはいえ、ベテランの開発担当者に1時間近くインタビューをし、その内容を文章としてストーリー化するのに2時間ほどかけ、魅力的なストーリーができた!と思っていた私はあきらめませんでした。
社外に公開しないという判断はあってもいい、しかし……社内で有効活用はできるはず。
そこで、私が提案したのは「商品開発ストーリー」を主に新入社員向けの教育用教材の一つとして利用することでした。そして、その提案はその場で受け入れてもらえました。
■ストーリーを社員教育に
なぜなら、そのストーリーは、商品開発の歩みにフォーカスしているものの、商品開発に取り組み始めた当時のマーケット状況や会社の業績の浮き沈みなども含んでいます。したがって商品の進化だけでなく会社の歴史を知る上でもいい教材になると考えたからです。
概して、創業者や古株の社員をのぞけば、会社、商品、サービスを一つの歴史的流れとしてきちんと理解している社員はあまり多くありません。
各社のコーポレートサイトの「沿革」を見れば確認できるという意見もあるかもしれませんが、年月日とイベントが並んでいるだけの無機質なもので具体的にイメージしにくいものがほとんどでしょう。
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新卒や転職組の新入社員のみなさんが社員教育用教材の一つとして、そのストーリーに触れ、次のような驚きや感想を持ってもらえれば……と思います。
「へー、うちの商品こんなドラマがあったんだ!」
「あの商品のネーミング○○さんが発案したのか!」
それによって、会社や商品、その歴史に対する理解を深めると同時に感情移入度を高め、会社や商品に愛着をより強く持てるようになるお手伝いになれば私としては望外の喜びです。
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