映画・写真・音楽

裏窓

Rear Window.gif

ヒッチコックの『裏窓』、Rear Window (1954) を観た(日本にいる、うちの奥さんから「勉強で忙しいはずなのによくそんなに映画ばかり観ていられるわね」などと嫌みを言われたりする。しかし、映画関連の授業が必須になっているので、必要に迫られて観ている映画も少なくない。この映画もその一つ)。
 ハリウッド映画における伝統的なプロットの組み合わせ、ヘテロセクシュアルな恋愛と、他の要素を組み合わせているという意味ではかなり平凡だが、実際のところ複雑でかなり含みを持った作品だと言っていい。
 映画を観るという行為は一つの代表的な娯楽形態だが、主人公を中心とした他人の人生におけるドラマをのぞき見している、という意味合いも持ちうる。いわば、他人の行動や秘密をのぞいてみたいという衝動や欲望に支えられたvoyeurism(のぞき見趣味)的行為でもあるわけだ。


 この映画のJames Stewartが演じる主人公は、撮影中に足を折って動くことのできなくなったプロのカメラマンだ。彼は開け放たれた窓から近所の住民の生活を盗み見る。そして、彼らの生活を勝手に解釈し、ある意味では妄想を膨らませていく。映画館の固定された椅子に座って身動きせずに、ひたすら他人の人生ドラマを90分間なり見続けるというわれわれの映画を観るという行為もこの映画の主人公ののぞき趣味に重なるような気がさせられる。
 この映画の主人公は初めは、一方的に他人の生活をのぞき、それにより自分ののぞき見趣味的な欲望を満たしていた。しかし、のぞかれていた者の視線が彼に向かってきた時になって、ある意味ではのぞき見られていた被害者の痛みを知ることになるのだ。
 作品としては、ほとんど説教くさいところのない娯楽作品という風に受け止めることも可能だ。しかし、映画を観るという行為そのものに関する問い直しがそこに含まれているのは明らかだ。

ピックアップ記事

  1. 相手にアクションを求めるなら「失敗談」と「成功談」をセットにしたストーリーを伝え…
  2. One Book, Three Points, One Actionから始めよう…
  3. 日常のコミュニケーションにストーリーを!
  4. ストーリーは「心」を動かすための演出

関連記事

  1. 映画・写真・音楽

    村上隆が語る仕事

     アジアのルールを翻訳する日本人がロジックという時ガチガチで四角四面…

  2. 映画・写真・音楽

    花見、ブリジット・ジョーンズの日記の続編

      正午頃、家を自転車で出て、近所にある航空公園に桜を奥さんと見に行っ…

  3. 映画・写真・音楽

    『シッピング・ニュース』

    幼いときに、父親にある種の虐待を受け、トラウマを抱え、成人しても自分に…

  4. 映画・写真・音楽

    ダーク・スティール

    あなたはロドニー・キング事件を覚えているだろうか。ロドニー・キング事件…

  5. 日記

     Androidスマホ用 音楽CD取り込みドライブ「CDレコ」で実際に音楽データを取り込んでみました…

    はじめにこちらでお伝えしたように、ブログスカウト事務局さんの企画で…

  6. 映画・写真・音楽

    metacritic.com

    Film&Visual Cultureクラスの課題として映画に関する…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

最近の記事

アーカイブ

  1. 日記

    フォーカスできていない!
  2. ストーリー思考

    なぜ私たちは勧善懲悪の世界に飽きないのか?
  3. 日記

    文化の日、入間航空祭、サイボクハム
  4. WEB

    ダ・ヴィンチのノートが読める
  5. 研究

    教育現場での広告戦略
PAGE TOP