毛布が飛んだ。そして、消えた。
出勤中、最寄り駅近くで携帯電話に奥さんから連絡が入る。
「家を出たときに、毛布をみなかった?」と奥さん。
「毛布……どういうことだい? 気づかなかったけれど」と僕。
「毛布がベランダから消えてしまったのよ」と再び奥さん。
その言葉を聞いて、我が家の毛布は羽ばたいて飛び立ったのだということを理解した。
確かに朝からひどく風が強かった。
我が家は9階建てのマンションの8階にある。高い位置にあるせいか、風で洗濯物が吹き飛ばされたのは初めてではない。ただ、これまで吹き飛ばされた歴代の洗濯物は発見し回収してきた。
しかしながら、今回の毛布は発見することができなかった。もちろん毛布は小さい物体ではない。あの大きな毛布が空飛ぶ絨毯のように、八階のベランダからふわっと舞い上がって飛んでいく様子を想像するとなかなかおかしい。ぜひ、そのシュールな光景を見たかったものだ。
毛布が風によって消失したことは所有物の損失ではある。しかしながら、あの毛布が交通事故を引き起こさなくて不幸中の幸いだと夫婦で安堵したのだった。
というのは我が家のベランダの真下には車の通りの多い道路が走っており、落ちてきた毛布が車の運転手の視界を遮って死亡事故でも起こったら笑い話ではすまなかっただろうから。
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