幼いときに、父親にある種の虐待を受け、トラウマを抱え、成人しても自分に自信を持つことができなかったクオイル(ケビン・スペイシー)という男の物語。父親にあわやのところで溺死させられそうになった記憶を持つクオイルの人生は、なぜか水と深い関わりがあるように表象されている。妻の溺死もその一つだ。また、妻の死をきっかけに移住したカナダの北東部,ニュー・ファウンドランド島は、紛れもなく水に囲まれた場所である。島について以来、ボートを買うことを進める人々に対する彼の答えは決まって”I’m not a water person.”(あんまり、水が好きじゃないんだよ)というものだった。
彼は、地元の新聞社にレポーターとして務め、少しずつ自己に対する自信を回復していく。その島で彼は自己のルーツともいうべきものに向かい合うことになる。それは、彼の先祖が海賊で、やりたいほうだい野蛮行為を働いたため、島を追放になったということだった。水を恐れている自分の祖先が、水の世界で横暴に振る舞っていた海賊だったということを知った彼の複雑な思いは語られないが、彼の行動からはひしひしとそれが伝わってくる。島には、自分以外にもいろいろと傷ついた人がいて、それぞれに影があり事情を抱えている。しかしながら彼ら島の人々との交流を通してクオイルは深く傷ついていた自分自身を癒すことができるのではなはないか、と可能性を信じることができるようになったのだった。
そういった意味で、象徴としての水が、非常に効果的に使われているな、という感じがした。僕が気に入ったところは、ストーリーの中に埋め込まれた謎とも言うべきものすべてをきれいに最終シーンまでに解決してしまうのではなく、それなりに未解決で残した点である。ある程度の謎や、あえて無理してまで解かなくてもいい問題というものは現実の人生においては、雪のように降り積もっていくものだし、それを人は受け入れなければならない。そういった意味で、最後に、主人公のクオイルに「まだ、謎はたくさんあるけれど……」とあえて語らせたシーンが強く印象に残った。激しく涙を誘ったり、見ていてスカッとしたりするシーンはないが、人の心のひだにすっと入り込み、静かな感動を誘うことのできる作品だと感じた。
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