買い物行動を操る「順序効果」の驚くべき心理作用

私たちは日々、さまざまな場面で意思決定を行っていますが、それらがすべて合理的で最適な選択だと言えるでしょうか。行動経済学は、伝統的な経済学が前提としてきた「人間は合理的に行動する」という考え方に疑問を投げかけ、実際の人間の意思決定プロセスにあるバイアス(偏り)を実証的に明らかにしてきました。

そんな行動経済学の知見は、日常生活のさまざまな場面で活用されています。特に、私たちの買い物行動を設計する上で、大きな影響力を持っているのが「順序効果」です。スーパーマーケットの品物配置を見れば、この心理作用が巧妙に利用されていることがわかります。

入り口近くに生鮮食品売り場がある理由

ほとんどのスーパーマーケットで、入り口付近には生鮮食品売り場が設けられています。ここには、新鮮な野菜や果物がディスプレイされていることが多いです。一見すると、健康的な食品から手にとりやすいよう配慮されているように見えます。しかし実は、この配置には買い物客の心理を巧みに操る意図が隠されているのです。あなたはそこにどのようなねらいが隠されていると思いますか?

それは、「順序効果」と呼ばれる心理学的な効果に基づいています。はじめに健康的で良いものを選ぶと、人の中には一種の達成感が生まれ、その後は不健康なものを購入することに抵抗がなくなる傾向があるのです。つまり、入り口で新鮮な野菜や果物を買うことで満足感を覚え、その後はスナックやジャンクフード、アルコールのようなあまり健康的ではない食品を手にとりやすくなるのです。結果的に、店の売り上げ増加につながるわけです。

レジ周り「チェックアウトマグネット」の存在

次に、レジ周りに目を向けてみましょう。ここにはよくチョコレートやグミ、クッキーなどの駄菓子がディスプレイされています。一見適当に並べられているように見えますが、実はここにも深い心理作用が隠されています。

レジ周りはいわゆる「チェックアウトマグネット」と呼ばれる現象が起きやすい場所なのです。会計を済ませ、一刻も早くスーパーを後にしたいという気持ちが高まっている状態です。この深層心理を刺激することで、無意識のうちに衝動買いを誘発させようとしています。ここで働いているのは、直感的に物事を判断する「システム1」と呼ばれる自動化された心的プロセスです。合理的で冷静な「システム2」が抑制されやすい状況下で、より系統立たない選択をしがちになるのです。

イギリスの健康規制と賢明な取り組み

食品の健康面での影響を考えたとき、レジ周りでの食品ディスプレイは適切だと言えるでしょうか。一部の国ではこの問題に着目し、規制を設けています。イギリスではレジ周りへの、健康に良くない食品の陳列を法的に制限する取り組みが行われています。

この試みは、国民の食生活改善を狙った賢明な政策だと言えるでしょう。行動経済学の知見を活かし、私たち消費者の合理的な意思決定を後押しする画期的な取り組みだと言えます。経済的な合理性のみを追求するのではなく、健康面での影響も考慮する必要があります。

定期的な品物配置変更の効用

これまで、スーパーマーケットの入り口周りとレジ周りについて見てきました。実は、商品の配置全体にも巧妙な心理作用が隠されています。それは、定期的に品物の場所を変えることで実現されます。

多くの人は、慣れた買い物ルートに沿って品物を手にとる傾向があります。そこで店側は、一部の商品を入れ替え、買い物動線を変更することで変化を創出し、今まで気がつかなかった新商品を認知させようとするのです。

オンラインショッピングにも順序効果は存在

ここまでは主に実店舗での事例を見てきましたが、実はオンラインショッピングの場でも順序効果は存在します。例えばECサイトでの商品検索では、検索結果の上位に表示されるものを選択しがちです。上の方から順に目を通す習性があるためです。

さらにページ内の前半の方に注目が集まりやすいという、いわゆる「インターネット無気力」の現象も存在します。オンラインショッピングは物理的な店舗とは異なる環境ですが、同様に順序効果が巧みに利用されているのがわかります。

終わりに

私たちは日常的に、さまざまな場面で無意識のうちに影響を受けています。スーパーマーケットの品物配置は、行動経済学の知見を取り入れた最たる事例と言えるでしょう。入り口、レジ周り、商品配置全体に至るまで、精緻に心理作用が計算されているのがわかります。

合理的な意思決定を下すのは意外と難しく、私たちはさまざまなバイアスから自由ではありません。しかし、この心理作用に気づき、意識することで、より良い選択を導くことができるはずです。買い物を行う際には、こうした行動経済学の観点から自身の行動を見つめ直してみるのも、意味あることかもしれません。

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