アメリカという国は現代の地球や人類にとって、ひどく厄介な存在かもしれない。
今、米英を中心としたイラク攻撃が現実味を日に日に増してきている。アメリカの主張はこうだ。「イラクはテロ支援国家である、大量殺戮兵器や生物兵器も持っている。アルカイーダとのつながりもある。イラク・フセイン政権は文明社会にとって潜在的な脅威である。よってアメリカを中心とした圧倒的な軍事力により、根こそぎ取り去らねばならない」
こういった流れは、もちろん9・11の同時多発テロをきっかけにしている。我が家で話題になったのは、二〇〇〇年の大統領選でアル・ゴアが勝利していたら、まったく違う展開になっていたであろうということである。バタフライ型のマークシートを採用し、有権者にブッシュJr.が優位になるような形で混乱を起こしたフロリダでの灰色の選挙の結果、現大統領が決定した。あの時、私は留学中でアメリカに滞在中であったが、まあ、自分が国籍を持たない国のことなので多少憤りながらも、しかたない、という風に受け止めていた。しかし、今となってみれば、あの時点でゴアという選択肢であったらずいぶん世界情勢も変わっていたかもしれない。
その後の、同時多発テロはブッシュ政権にとって、大きな追い風となった。あの事件のショックは結果的にアメリカのナショナリズムを昂揚させた。それはブッシュJr.政権の支持率に反映された。でも、それはちっぽけなことであった。もっと重要なことがある。大げさにいえば、あの事件はアメリカの地球や人類に対するテロリズムを正当化する口実を与えてしまったのである。
というのは、正確なデータはわからないが、おそらく一番多くの人間の生命、特に一般市民の命を絶ってきた国家はアメリカだと想像されるからである。もちろん、広島・長崎、ベトナム戦争を初めとして、最近の湾岸戦争、アフガニスタン攻撃、それ以外にもアメリカは世界のあちこちに軍事介入をし、その圧倒的な軍事力で、ベトナム戦争を除けば、勝利を収めてきた。しかし、その勝利の裏には圧倒的な死者の数が横たわっているはずである。
死者の数だけではない。原爆、枯れ葉剤、劣化ウラン弾の使用、ペルシャ湾岸石油流出事件など、人体や地球環境に後々にまで後遺症を残すような行為をアメリカは歴史的に繰り広げてきた。
そういった意味では、グローバルな視点から考えれば、アメリカこそ、人類や地球環境にもっとも大規模に悪影響を及ぼしているテロリズム国家なのではないだろうか。
宗教、経済、思想、民族、人種、階級などの理由により、テロを企てるグループは確かに数多くい存在しているかもしれない。しかし、国益のために、一つの国をほとんど崩壊させるほどの大規模な国家的テロリズムを実行でき、そして実際に行動に移してきたのはアメリカという国たった一つかもしれない。
9・11の同時多発テロは皮肉にも最も危険な国、アメリカに「テロとの戦い」という便利なスローガンを提供してしまった。アメリカの帝国主義や介入主義を国内向け、もしくはイデオロギー的に合理化するために長い間使われてきた「マニフェスト・デスタニー(明白なる天命)」というレトリックをグローバルな文脈で展開する上でのかっこうの理由付けが現在「テロとの戦い」になっているように私には思えるのである。
イラクが大量破壊兵器や生物兵器を製造している、隠している? その真偽はわからない。ただ、アルカイーダとイラクとの関連がパウエル国務長官の国連でのプレゼンによって証明された、とも決して思えない。アメリカがイラクを攻撃したいのは、石油の覇権を握るため、中東のミニ・アメリカ、イスラエルに力を持たせるため、もしくはブッシュJr.や、かつてのブッシュ政権に携わっていた人々によるフセインへの個人的な復讐劇、他にも挙げればきりがないかもしれないが、まあいずれにせよ、真に国際社会を納得させるだけの合理的な理由であるようには思えないのである。しかし、それをオブラートとして包み隠してくれるのが「テロとの戦い」という綺麗なスローガンだというわけだ。
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