イギリスのスーパーなどで手に入る大人用歯ブラシは、僕の感覚からすると大きすぎて奥歯などの細かい部分が磨けないので、子供用の歯ブラシを買ってきた。試してみたが、口にしっくりとくる。悪くない。
夕方エッセイ執筆のため机に向かっていると、部屋の天井から音が響いてくる。集中力を疎外されるうんぬんの問題ではなくて、単純にうるさい。バスケット・ボールをバウンドさせているような音だ。
フラットのレセプションに連絡を取って、間接的に警告してもらおうとしたが、内線がつながらない。ボクシング・デイなので家族と食事か何かしているのかもしれない、と想像して、彼ら経由で警告することはあきらめた(建前上、24時間対応ということになっているのだけれど)。
僕の上の階は女子学生のフラットだ。だがチャイムを押すと、なぜか中国人らしき男子学生が出てきた。かなり英語がしどろもどろなので、中国人だと確信(バーミンガムの中国人のほとんどは英語がとても下手である)。パーティーをやっているのでうるさいのだという。我慢してくれ、という感じだ。集まって騒ぐのは構わない、なんのためにノイズを出しているんだ、と尋ねる。すると、それはここの音ではない、という。さらに上のフラットからの音だろう、と。
そうか、と一瞬納得しそうになった。危なかった。しかし、僕には自分の真上のフラットの部屋からの音だという確信があった。中に入って確認させてくれと言うと、相手の返事を待たずにフラットの廊下に足を踏み入れた。フラット内の部屋のレイアウトは僕のフラットとまったく同じだったので、自分の部屋の真上に当たる場所の扉をノックしてから開けると、せまい部屋に男女含めて五・六人の中国人が集まっていた。そして、一人がバスケット・ボールを床にバウンドさせながら話をしていた。ボールをついていた若い男子学生の目をにらみつけて
“Stop it. It’s really disturbing me!”と言うと。すぐにボールを床につく動作をやめた。そして、僕は自分のフラットに戻った。問題は解決した。
中国の人々一般に関して、日本でもアメリカでも友人とのつき合いがけっこうあるのであまり悪い印象を持っていない。また同じ中国人でも、香港の連中は外国人でも価値観のかなり似通ったところがあると感じている。
ただ、バーミンガムの中国人はかなり異質な存在である。それはバーミンガムで最も驚いたことの一つだ。ちょっとワイルドで、デリカシーがない人間が多い。それは主観に基づいた乱暴な一般化かもしれない。
ところで、僕のこれまでの経験からくる認識だと、中国人の方が日本人と比較すると英語の運用能力は一般的に高い。しかし、ここではちがう。むしろ逆になっている。
彼らだって、大学院に入学資格を持っているということはTOEFLなりIELTSなどの語学試験でそれなりのスコアを獲得しているはずだ。基本的なヴォキャブラリーはカヴァーしているはずだと思いきや、話が全然通じないことがある。
知り合いの話では、中国では実施前のTOEFLやIELTSの問題自体と正答がいろいろな形で売買され流通しているのだという。この話、まさかと初めは思ったけれど、僕の中でだんだん真実味を増してきている。もし、それが事実だとすれば、中国本土におけるTOEFLやIELTSの実施を請け負っている団体のメンバーの一部が問題をリークしているわけで、ほうっておいてはまずい事態だと思うけれど。
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